キオクシア(285A)決算速報 2026 年 3 月期 — 通期 EPS 1,024 円で会社想定レンジ突破、Q1 予想は売上 1 兆 7,500 億円

PTS 一時 55,001 円(+13.5%)。前日終値 48,460 円から、引け後の値がぽんと跳ねた。決算短信は 16:00 過ぎに開示、内容は 通期 EPS 1,024.07 円 ── 私が前場に書いた決算予測レポートで「会社レンジの最大値 674.05 円ですら強気」と書いた数字を、さらに 52% 上回る 結果になった。

PTS の +13.5% は珍しい大きさだが、この決算内容を見ると素直な反応に見える。一方で、メモリ業界には「ピークで業績絶頂・株価最高値、半年後にサイクル反落」という過去パターンがあり、今夜の数字を全肯定で受け取って良いのかは別の話だ。今回はその両面を並べて整理する。

通期実績 — 会社レンジを超えてきた

2026 年 3 月期通期の主要指標は以下の通り。

指標 2026/3 期実績 2025/3 期 増減率
売上収益 2 兆 3,376 億円 1 兆 7,065 億円 +37.0%
営業利益 8,704 億円 4,517 億円 +92.7%
税引前利益 7,841 億円 3,707 億円 +111.5%
親会社帰属当期利益 5,545 億円 2,723 億円 +103.6%
基本的 EPS 1,024.07 円 519.96 円 +97.0%
Non-GAAP 基本 EPS 1,033.58 円 507.89 円 +103.5%
ROE 51.9% 45.9% +6.0pt
売上収益営業利益率 37.2% 26.5% +10.7pt

事前予測との対比で目を引くのは、会社自身が示していたレンジ(甲種優先株配当ベース 563.85〜674.05 円)の最大値ですら大幅に下回っていた という点だ。SBI 証券のコンセンサス想定 EPS は 885.8 円(予想 PER 51.54 倍)だったが、これも 138 円分(+15.6%)の上振れで決着した。

事業セグメント別では:

セグメント 売上収益 前期 前期比
SSD & ストレージ(DC・PC・エンタープライズ) 1 兆 3,626 億円 9,911 億円 +37.5%
スマートデバイス(スマホ・タブレット・車載・家電) 7,600 億円 5,011 億円 +51.6%
その他(SD カード・USB・Sandisk 向け) 2,150 億円 2,142 億円 +0.4%

SSD & ストレージ より、スマートデバイスのほうが伸び率が高い ことには注目しておきたい。AI データセンター需要が話題の中心になりがちだが、スマホ・車載向けの組み込みメモリ需要も同時に立ち上がっている。「AI ストーリー一本足」ではない決算ということになる。

Q4 単独 — 「年間想定の最大値を 1Q で達成」

決算予測レポートで「Q3 の 4 倍利益が出ないと会社想定下限に届かない」と書いた、その Q4 単独の数字がこちらだ。

指標 2026/3 Q4 単独 2026/3 Q3 単独 前 Q 比
売上収益 1 兆 29 億円 5,436 億円 +4,592 億円(+84%)
Non-GAAP 営業利益 5,991 億円 1,447 億円 +4,545 億円(+314%)
営業利益 5,968 億円 1,428 億円 +318%
親会社帰属四半期利益 4,077 億円 878 億円 +364%
基本的 1 株当たり Q 利益 747.72 円 162.13 円 +361%
米ドル平均レート 155 円 153 円 +2 円

Q4 EPS 単独 747.72 円 ── これは会社が示していた通期想定上限 674.05 円を 1Q だけで突破した ことを意味する。為替がたかだか 2 円円安方向に振れただけ(153 → 155 円)でこの水準が出た以上、為替要因では説明できない。メモリ単価が想定外に上振れた か、出荷量がさらに伸びた のいずれか(あるいは両方)だ。

短信の Q4 比較表には「出荷量(記憶容量ベース)は減少したものの、平均販売単価の大幅な上昇」と明記されている。つまり、数量はむしろ減らしながら、単価上昇だけで売上を 84% 押し上げた 構図。これは半導体メモリのスポット価格が短期間で急騰したことを反映している。

Q1 ガイダンス — ここが今夜の本丸

通期予想は「メモリ業界の事業環境変動が大きい」として 未開示 のままだが、2027 年 3 月期 Q1(4-6 月)の予想だけは開示された。これが破壊力ある数字だ。

指標 2027/3 Q1 予想 2026/3 Q4 実績 前 Q 比
売上収益 1 兆 7,500 億円 1 兆 29 億円 +74.5%
Non-GAAP 営業利益 1 兆 3,000 億円 5,991 億円 +117.0%
営業利益 1 兆 2,980 億円 5,968 億円 +117.5%
親会社帰属四半期利益 8,690 億円 4,077 億円 +113.1%
Non-GAAP 基本 1 株当たり Q 利益 1,593.15 円 751.78 円 +841.37 円
基本的 1 株当たり Q 利益 1,591.32 円 747.72 円 +843.60 円
米ドル平均レート前提 159 円 155 円 +4 円

「データセンター向けの需要が引き続き旺盛に推移することが予想される」── 短信の今後の見通しはそれだけしか書いていない。前提となる単価・出荷量の内訳開示はない。だが、Q1 単独の予想 EPS 1,591 円 という数字が独り歩きを始める可能性はある。

ここで簡易な「割安判定」をやってみると、

  • PTS 55,001 円
  • Q1 予想 EPS 1,591 円 × 4 = 年率換算 EPS 6,365 円
  • 年率換算 PER = 55,001 ÷ 6,365 ≈ 8.6 倍

数字だけ見れば「PER 8 倍台のメモリ世界 No.3」となり、海外半導体株(SK ハイニックス・マイクロンの予想 PER は 10〜15 倍レンジ)と比べても 異様に割安に見える。これが PTS が +13.5% で買われている主因だろう。

ただし、Q1 実績がそのまま通期続くと信じる必要がある という強い前提が乗っている。次の章でそこを掘る。

サイクル業界の「年率換算 PER の罠」

メモリ業界の業績は四半期ごとの変動幅が極めて大きい。直近 4 四半期の Non-GAAP 営業利益 を並べてみる:

四半期 Non-GAAP 営業利益
2025/3 Q1 約 1,000 億円水準(推定)
2025/3 Q2 約 1,200 億円水準(推定)
2025/3 Q3 1,447 億円
2025/3 Q4 5,991 億円 ← イマココ
2026/3 Q1(予想) 13,000 億円 ← 来期予想

直前 1 年間でみても、四半期営業利益が 1,000 億円から 1.3 兆円まで 13 倍に振れる 想定が描かれている。これはメモリ DRAM/NAND 業界の伝統的な振れ幅と整合的(マイクロン・SK ハイニックスも過去 5 年で同等の振れを見せた)だが、裏返せば 「Q1 実績がピークで、Q2 以降は急減速」というシナリオも同じ業界ロジックで起こり得る ということでもある。

過去のメモリサイクルピークを思い出しておきたい。

  • 2018 年 Q1: マイクロンが「memory super cycle」と称された四半期 EPS ピーク。その半年後 NAND 価格暴落で株価半値。
  • 2022 年初: SK ハイニックスが過去最高益。その後 18 か月で営業赤字転落。
  • 2014 年: 東芝メモリ(現キオクシア)の出荷ピーク後、価格急落で再投資負担に転落。

つまり「Q1 EPS 1,591 円 × 4 = 年率 6,365 円」という単純年率換算は、サイクル業界では基本的に過大評価方向に効く という履歴がある。

私は決算予測レポートで「会社レンジの最大値 674.05 円が出てもキオクシアの予想 PER は 71.9 倍」と書いた。実績がそれをさらに 52% 上回ったので、実績ベース PER は 47.3 倍 に下がる。Q1 ガイダンスを年率換算した PER 8.6 倍とは 5 倍以上の差 がある。この差をどう埋めるかが、今後の株価反応の本質 だ。

PER 計算方法 EPS PTS 55,001 円基準 PER
2026/3 期実績 EPS 1,024 円 53.7 倍
年率換算(直近 4Q 実績) (Q1+Q2+Q3+Q4 の合計) 1,024 円 53.7 倍
会社レンジ最大値(事前) 674 円 81.6 倍
Q1 予想 × 4 倍年率換算 6,365 円 8.6 倍
Q4 実績 × 4 倍年率換算 2,991 円 18.4 倍

「8.6 倍」と「53.7 倍」の間のどこが正しいフェアバリューかは、メモリ価格がいつまで現在のスポット高を維持するか にすべて懸かっている。

財政状態 — 自己資本比率が 1 年で 12.6pt 改善

今期は決算内容だけでなく、バランスシートも劇的に良化した のがもう一つのトピックだ。

項目 2026/3 期末 2025/3 期末 変化
資産合計 3 兆 6,901 億円 2 兆 9,197 億円 +7,704 億円
親会社所有者帰属持分 1 兆 3,989 億円 7,376 億円 +6,614 億円
自己資本比率 37.9% 25.3% +12.6pt
1 株当たり親会社帰属持分(BPS) 2,561.74 円 1,367.49 円 +87.3%
現金及び現金同等物 4,707 億円 1,679 億円 +3,028 億円
営業 CF +6,165 億円 +4,764 億円 +1,401 億円

PTS 55,001 円基準の PBR は 21.5 倍 ── まだ純資産対比では割高だが、1 年前の PBR 36 倍水準と比べれば改善している。とくに 2025 年 7 月の 甲種優先株式 7,738 億円・乙種優先株式 8,041 億円の取得・消却 が完了したことで資本構造が単純化された影響が大きい。これにより、普通株主に流れる利益のコンスタント性が向上した という意味では、PER 議論よりむしろ重要なトピックかもしれない。

配当 — 2027/3 期予想は「未定」のまま

2026/3 期も無配(0 円)、2027/3 期予想配当も「未定」 で開示なし。短信には「現時点では 2027 年 3 月期の配当予想額は未定です。配当予想を決定しましたら速やかに開示いたします」とだけある。

これだけ利益が出ているのにインカム狙い投資家には全く向かない銘柄、という性格は変わっていない。当面はキャピタルゲイン狙い専用 と位置付けるのが現実的。

失敗の答え合わせ — 私の予測のどこが外れたか

朝に書いた決算予測レポートでは、以下のような筋書きを提示した。

私の予測 実績 誤差
会社レンジ上限 EPS 674 円が出れば「織り込み済」 EPS 1,024 円 +52% 上振れ
Q4 単独で Q3 の 4 倍利益が必要(=「異常水準」) 実際は Q3 の 4.6 倍 が出た 想定の上限を超えた
会社レンジでも PER 71.9 倍は依然「先行投資」水準 実績 PER 47.3 倍 想定より 24pt 低い
出来高 2.4 兆円は「織り込み完了サイン」と読める 実際は「序章」だった可能性 読み誤り

この決算は私の事前想定の上限シナリオすら上回った。とくに「市場は既に最大値を織り込んだ後で出来高 2.4 兆円が出ている」という読みは、PTS +13.5% という反応を見る限り ほぼ間違っていた。市場参加者の多くは「会社レンジ最大値 + α」までしか織り込んでおらず、それをさらに 50% 上回る数字に驚いている、というのが正しい解釈と思われる。

裏を返せば、事前にこの規模の上振れを正しく予想できた人は少数派(証券会社の最高予想 SBI 885.8 円ですら 138 円下回っていた)。セルサイド全体が後追いで業績予想を上方修正してくる可能性が高く、それが翌日以降の追加買い材料になり得る。

私が今、仮に買うなら何を考えるか

ここから先は 実際のトレード記録ではなく、仮想的な思考整理 として書く。私は現時点でキオクシアの保有はない。仮にここから新規で入るなら、以下の 3 派の論点を意識する。

飛び乗り派の論点(短期)

  • PTS 55,001 円が翌日寄り付きで現実化するか。仮に寄り 55,000 円で買って S 高(66,000 円付近)で売れれば +20%。
  • セルサイドの目標株価上方修正フォローが翌日中に出る可能性が高い。
  • リスク: PTS は薄商いで成立しているので、寄りで一段下がる可能性も常にある(過去事例: 決算サプライズ後に PTS から −5〜−10% で寄ることは珍しくない)。

中期ホールド派の論点(3〜6 か月)

  • Q1 EPS 1,591 円ガイダンス通りなら 7 月の Q1 開示でもう一段の上昇余地。
  • データセンター AI 需要のピークアウト時期がまだ見えない。
  • リスク: メモリ単価がスポット価格頂点を打って 1〜2 か月で −20〜−30% になった過去事例あり。Q2 ガイダンス次第で梯子を外される可能性。

サイクル懐疑派の論点(半年〜1 年)

  • 過去のメモリサイクルでは「最高益発表 → 半年後に株価半値」が定型パターン。
  • マイクロン株価は 2018 年 Q1 ピーク後、6 か月で −45%。
  • 論理: Q1 EPS 1,591 円 = 年率換算 PER 8.6 倍は、サイクルピーク企業によく見られる「割安に見える PER の罠」 の典型例にも見える。
  • 仮に 1〜2 年保有想定なら、現在水準ではあえてポジションを取らずに業績ピークアウトの兆候を待つ手も。

私個人の判断としては、今すぐ飛び乗るのは PTS の +13.5% で 1 日分の上昇を既に消化していて妙味が薄く、かつ「サイクルピーク警戒」に重みを置く ので、この水準では新規買いは見送る と思う。逆に、2〜3 か月先のメモリ価格動向を見ながら、押し目があれば 50,000 円を割る場面で打診買いを検討する、という構えに近い。これは「ガイダンスを信じない」のではなく、「業界サイクルの不確実性に対して、自分のリスク許容度では現値での全力買いは難しい」という性格判断だ。

短期トレーダー視点と中期投資視点では結論が真逆になる銘柄なので、自分の時間軸を先に決めてから入るかどうか判断する、というのが最も大事だと思う。

リスク・留意点

  • メモリ単価のスポット価格反落: NAND/DRAM スポット価格はサイクル業界の常で、2〜3 か月で 20〜30% 動くことが過去にあった。Q1 予想前提 159 円という為替も、実際の Q1 期間中に大きく動く可能性。
  • 通期予想未開示: 今期は会社自身が「事業環境変動が大きい」として通期予想を出していない。投資家サイドは Q1 ガイダンスから単純年率換算するか、自前で Q2-Q4 を推定するしかない。これは予測リスクが投資家に転嫁されている状態
  • AI バブル懸念: 現在のメモリ需要急騰の主因はデータセンター向け AI サーバーで、ハイパースケーラー(GAFA + メタ)の設備投資が急減速すれば直接ヒットする。
  • 競合の動向: SK ハイニックス・マイクロンも同時期に過去最高益を更新している。サプライサイドの増産競争が始まれば単価下落圧力。
  • 配当無し: 当面の配当は期待できない。インカム投資家には不向き。
  • PTS の薄商い: PTS 55,001 円は薄商いで成立した気配値であり、5/16 寄り付きでこの水準が現実化する保証はない。

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免責事項: 本レポートは個人の見解であり投資助言ではありません。記載の数値は決算短信(2026 年 5 月 15 日付)および当サイト DB に基づきますが、転記ミスや市況変動の影響は完全には排除できません。投資判断は必ずご自身の責任で、当該企業 IR・適時開示原本をご確認のうえで行ってください。とくに PTS 価格は薄商いで成立した気配値であり、翌営業日寄り付きの実勢価格を保証するものではありません

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